(1) 序文
1996年5月の開業からの16年10ヶ月の間に在日外国人を52か国、合計1,458人診療しました。
この数字より多い診療所もあるでしょうが、それなりに多いと思いますので、この体験談を述べるとともに、お願いを申しあげます。
一言で在日外国人の患者といっても、私の診療所では第一に早稲田大学等の留学生、第二に大手町や新宿・大久保界隈で合法的に働く勤労者、第三に日本政府から難民認定を受けた方や第三国への亡命申請中の短期滞在者、さらに出稼ぎなどいわゆる「不法滞在者」がいました。
最後の範疇の方々がこの投稿の主題です。
(2) まずは良い話。
ミャンマーの軍事政権に“今なお”迫害されている少数民族のカチン族で、難民として来日したMさんは私の診療所のそばでカチン料理の店を開いており、私も週1ペース以上でランチに行っていました。 高田馬場から早稲田の界隈には数百人のミャンマー人が住んでいます。
若い世代は日本語も英語も堪能な方が多いですが、年配の方はいずれも話せない方が多いです。
日本語も英語も話せない、さらに短期滞在の在留資格しかなく無保険、生活扶助の対象外、無所得・低所得で医療費も満足に払えない、そういった方々は多くの診療所が受診を嫌がりますので、AMDAという医療NGOやキリスト教系のボランテイア団体などから私の診療所に受診の申込みがきます。
(私は歯学部入学以前から早稲田の街でNGO活動をしており、この一帯を拠点とするいくつかのNGO団体と開業後も連携していました)
こういった方々は多数歯う蝕など相当の治療回数・費用を要する事も多いのですが、あちこちの医療機関で受診を”事実上”断られ、結局は治療を諦めることが多いので、きちんと咬合を回復しようと思うと、無料診療をするしかありません。
したがって、治療をすればするほど、同様の紹介患者が増えれば増えるほど、診療所側は出費が増える一方です。
しかしこの十数年、日本政府も不法滞在者に対する取り締まりを強化する一方、難民認定をする人数が増えてきて、以前は保険未加入だった不法滞在あるいは短期滞在の方々も長期滞在資格を得て社会保険制度に加入できるようになり、以前から通院していただいた方々が紹介患者をたくさん連れて初診申込に来たりしました。
話はそれますが、上記のMさんは国際的にも活躍しており、ジュネーブの国連難民高等弁務官事務所で大国の外交官らと討議した話をランチの際に厨房から出てきて食事中の私に聞かせしてくださいました。
ミャンマーの政治的状況も御存じの通り徐々に改善されています。
支援した人々の状況が良くなるのは聞いているのも楽しいです。
(3) 次に悪い話。
社会保険に加入できない貧困層に無料診療、というのが私のスタンスですが、そうなると悪用する人間が登場します。
保険加入資格はあるけど保険料の支払いが嫌だから払わない。
滞在中に稼ぐだけ稼いで、(私の診療所なら治療に金かけずに済むし)貯金・送金を目一杯して帰国後は物価の桁違いに安い母国に豪邸を建てて左うちわの生活、と知人から噂に聞いたこともありました。
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(悪質な)不法滞在なので他の医療機関は受診できないから、ここに来た。
(各地の警察署の方が、私の診療所に不審な受診者情報の問い合わせにたまに来院します。)
手引きして不法入国させた従業員を受診させるような、歌舞伎町界隈のアジア系のマフィア御用達になりかねない恐れも出てきました。
(4) もっと悪い話。
上記のように様々な人々が来院するのですが、真っ当な方ばかりではないので、従業員に何かあったらいけないので、無料診療の一部は従業員の帰った診療終了後、あるいは休診日にしていました。 私が一人で患者(単数・複数)と対応しますし、レジにいくばくかの現金があるわけです。
無防備で金がある、ということで、通訳同行といった名目で2〜3人の不審な輩が受診と言って入ってきて、なんとなく疑わしい雰囲気で、受付でやりとりします。
怪しいと感じて入室・診療を断ると、特に紹介で来た人など、「なぜ私を診療しない!」といった押し問答が生じます。
こういったトラブルが特に近年多発してきました。
「そのうち殺されるだろうから、やめとけ。」といった助言も聞くようになりました。
今の診療所で診療を続ける限り、これまでの活動や人間関係を断ち切ることはできないと思い、廃院することにしました。
一部の人間関係を断ち切らざるを得ない状況のため、今まで使っていた電話番号やメールアドレスを不通にした一方、診療所オリジナルHPへの投稿などいくつかの問い合わせの連絡方法を残しておきましたが、今なお受診希望の連絡がしばしば来ます。 ただし廃院で都内で多数の患者さんを診療するのは私には不可能です。
(5) むすび
そこでお願いですが、患者さんや治療内容を選別して結構ですので、引き継いでくれる先生はいらっしゃらないでしょうか?
(無料診療と言っても、補綴物技工料、材料・薬品代などは持ち出しです。
月により数千点相当になりますので、診療を稼ぐ仕事として考えると月に数万円相当の逸失利益(つまり、ただ働き)になりますが、対象患者や治療内容を選別・限定すれば、調整できます。)
また、難民の方々の来院状況を見ていると、十数年前は旧ソ連の中央アジアやロシアの民族自治区の内戦地域の出身者が続き、最近はアフリカ(ナイジェリアやスーダンなど)からが増える、というように、世界の紛争の動向を実感します。
難民の多くは日本語も英語も話せませんが、AMDAが十数カ国の通訳ガイドを発行しており、また電話通訳を介して援助してくれます。
やっても良い、あるいはとりあえず検討していただける方がいらっしゃいましたら、私まで連絡をお願いします。
参照)AMDA国際医療情報センター > 協力のお願い > 協力してくださる医師、歯科医を探しています http://amda-imic.com/
<会報編集部より>
この度、斎藤先生のご要望により、難民援助という人道的観点、内容によりこのツィッターを掲載しましたが、本会は当該の治療行為における一切の責任は負いかねますのでご留意ください。
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